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悪党に粛清を ※ネタバレあり

デンマーク人監督が作った西部劇。これまでのウェスタンとは色合いが異なり、ノワール感が満載だ。

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この映画の魅力を列挙しよう。

1.アメリカは移民の国
西部開拓時代は、ヨーロッパからの入植者たちで溢れかえっていた。ということは、似て非なる文化や背景を抱えた人たちが、訛りのある英語でお互いにコミュニケーションを取りながら暮らしていたはずだ。本作に登場するキャラクターたちのほとんどは、いわゆるアメリカ英語とは異なる訛りのある英語を喋っていた。そこが実にリアルに感じるのだ。実際に俳優陣の大半は非アメリカ人で構成されている。移民者たちが作り上げた国、アメリカ。外国人監督だからこそ撮れた映画だといえる。

我が心の女王様、エヴァ・グリーン。芯の強さと妖しさを兼ね備えた美しい人。いつも映画の中で魅力的な裸を惜しげもなく晒してくれる。本作では口をきけないというその役柄上、目で語るシーンが非常に多かった。残念ながら裸はなかったが、彼女の強く哀しい目の演技を楽しむことができる。とにかくかっこいいんだ、この人は。

3.一方的に追い詰められる主人公
祖国デンマークから呼び寄せた妻と息子に、どこかぎこちなくそれでも優しく微笑みかけるジョン。7年ぶりの再会に、この寡黙な男は不器用な接し方しかできない。きっと、これから共に生活する中で徐々に家族らしさを取り戻していくのだろう、と観客が見守っていたその矢先に不穏な空気が立ち込めて、妻と息子が無残にも殺される。まず、このオープニングからしてドキドキするし悲しい。何よりノワール感が濃厚だ。その後、兄も殺され、保安官や町長からも裏切られて、やりきれない怒りにジョンの心が燃える。「法も秩序もないのなら、全員、俺が裁く」なんていうセリフはどこにもないが、ジョンの表情がそう訴えていた。

デラルー一味はザ・悪者という感じでわかりやすい立ち位置。いかにもマカロニ・ウェスタンに出てきそうな連中だ。(雰囲気はヨーロッパのノワール映画に出てくるギャングスターに近いが。)

町長もなかなかのクズ野郎で、普段は町民の理解者面していい人ぶってるだけに、ムカつく。

聖職者でもある保安官は途方もない偽善者で反吐が出る。生贄を選んでんじゃないよ。だったら自分の首を差し出せよ。と、誰か言う奴はいないのか。

このように、主な登場人物のほとんどが敵、という中で、ひとり孤独に戦う男の姿を情感たっぷりに描いているのがこの映画だ。



狼の死刑宣告』というヴィジランテ映画があるが、あれも家族を殺された男の復讐劇だ。主人公の置かれた状況は似ているが、本作とは趣が全く違う。『狼の死刑宣告』の主人公ニックは復讐のために狂気をまとい、破滅の道へためらいもなく進んで行った。

一方で、本作のジョンには、生への執着がある。家族を殺ったあいつらを殺したら俺の人生も終わったっていい、とはこれっぽっちも思っていない。一度は断ったものの、結局、町の少年に最終決戦の協力をさせているのがその証拠だし、戦いの後もマデリン(エヴァ・グリーン)と共に旅立つあたり、移民の底力を感じる。そう、彼らは生きるために必死の思いで祖国を捨てアメリカに渡ってきたのだ。開拓精神とはすなわち生へのハングリー精神と同義なのだ。

などということを考えながら鑑賞していたわけだが、ロケがアフリカで行われたことをエンドロールで知り、これまであった西部劇のスタイルとはひと味もふた味も違うなあと改めて感じた次第である。