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鎌倉の恋人

日常
今まで好きになった女性、または可愛いと思った女性は、必ずしも同系統というわけではない。顔立ちもスタイルも性格も違う。きっと自分にはタイプというのは無くって、いろんな人を好きになる性分、つまり気が多い、もっと言ってしまえば節操が無い、良く言えばストライクゾーンが広い……確かに年を取るごとにゾーンは広くなっている気がする。

だが、最近ふと気付いたのだが、一貫して好きな顔立ちというのがあった。ちゃんとあった。

まだ22くらいの頃、バイト先の先輩のN川さん。一目見てぽっとなってしまった。若かりし頃の小さな良き思い出。一つ年上の彼女には、残念ながら同棲している彼氏がいた。二人とも東北の出身で、その当時から付き合っていたらしい。N川さんは彼氏を追いかけて上京してきたという話をバイト仲間から聞いた。

こりゃ自分の付け入る隙はないなと諦めた。今だったら、そんなもん関係あるか、奪っちまえ!……となるが、その頃はまだすれていなかったのでそういう発想には至らなかった。

彼氏は、記憶が正しければラグビーの選手だった。五郎丸フィーバーになるずっとずっと前からラグビー選手を捕まえていたN川さんの先見の明は素晴らしい。

N川さんは、芸能人で例えるなら三津谷葉子の系統の顔立ちだった。本当に可愛かった。その外見とは裏腹に、性格は男らしいというかサッパリしている感じで、そんなギャップも魅力の一つだった。思い返してみれば、彼女のような顔立ちの人を見ると、いつも無条件に心が躍る。ずっと見つめていたくなる。そう、これがタイプなのだ。

で、結局N川さんとは何もなく、彼女はいつだか退職し、取り残された自分はそのままそのバイト先でいろんなものをこじらせながらいろんな人と出会い、思いもよらぬ方向に人生は転がっていくのだが、それはまた別の話。

先日、また鎌倉に行った。当然、大仏さんも拝みに行った。この鎌倉の大仏さんが非常にいい顔をしていて大好きなのだが、一緒に行った友人たちにはこの熱い想いはあまりピンとこなかったようだ。そんなことはおかまいなしに、たぶん15分くらい、友人たちのことをほったらかしにして、そぼ降る雨の中、いろんな角度から大仏さんを拝顔した。とても清潔で品があり、ほどよい丸みのある可愛らしい目と頬と唇が色っぽくもあり、包容力がありそうだけどちょっと甘えん坊な感じを醸し出している鎌倉の大仏さんは、いつまで見ていても飽きない。ちょっと弥勒菩薩にも近いかもしれない。弥勒菩薩のほうがだいぶ大人だと思うが。

こんなに大好きなのだから、鎌倉の大仏さんには、自分の好きな顔立ちの原点があるに違いない。じゃあ、N川さんが鎌倉の大仏さんにそっくりかというと別に似てはいない。似てはいないけど、通じるものはある。何がと問われればうまく説明できないが、原点は同じな気がする。

昔の記憶を引っ張り出してそんなことをわざわざ考えたのだが、うやむやだった個人的な何かが整理されて少しすっきりした。

これからも定期的に鎌倉の大仏さんに会いに行くことだろう。つらい時も悲しい時も疲れた時も、優しく微笑んで話を聞いてくれる。大仏さんはバイト先も辞めないし誰かのものにもならない。いつだって鎌倉で鎮座して、待っていてくれるのだ。