2020 day13

昨日の曇天模様とは打って変わって、今日は快晴。実は7時くらいから目を覚ましていたが、昨日の夜が遅かったからどうせ妻も息子も起きないだろうと、スマホをいじったりウトウトしたりして2時間くらい布団の中で過ごした。そのうち息子も起き出しこちらの顔を覗き込んできたので、そろそろ起きるかとカーテンを開けた。

いい青空。

妻の目を覚ます為、音楽をかけた。息子がよく自分に対してやるように、妻の横に寝転がり、妻の寝顔から10センチの距離に顔を置いた。流している音楽の一曲目が終わる頃に妻は目を開いた。そして、目の前に自分を見ている顔があることに驚き、頭だけ飛び跳ねた。想像していた以上の驚き方だった。

そうしてようやく今日が始まった。

遅めの朝食を取って支度して、家族3人で昼過ぎに家を出た。13時半くらいに国立代々木競技場第一体育館に着いた。今日は待ちに待ったバービーボーイズのライヴの日。しかも、息子が生まれてからは滅多にない、夫婦ふたりでライヴを観る日なのだ。

開場前なので、入り口付近はまだそれほど混んでいない。体育館のほうからはリハーサルの音が漏れ聞こえてきた。テンションが少しずつ上がり始める。

入り口前には展示スペースがあったり、グッズ売り場があったり、ガチャがあったり。早めに来た人たちはさっそく盛り上がっている。我々もその輪の中に。

息子は何か楽しそうな匂いを感じたようで、あちこち動き回り落ち着かない。最終的にはまだ線が張られている入り口を突破して会場の中に入ろうとした。他のもので気を引かねば。息子の腕を掴み、あっちにおもしろいのあるよ、と言ってガチャの前まで連れて行き列に並んだ。息子はガチャが大好きなので、巨大なガチャマシーンを目の前にして目を光らせる。一回500円のガチャを息子に3回まわさせた。その後も、まだまわしたがる息子とお目当のものを当てたい父とは、性懲りもなく何度もガチャをまわすのだった。

けっきょく欲しかったものは引けなかったが、息子はガチャをたくさんまわせて満足したようだ。8回まわしてかぶったアイテムはひとつだけ。四角くて薄っぺらい。表には、まかせてトゥナイト、と書かれてある。初期のナンバーの曲名だ。昨年末にやっていたこのバンドのラジオ番組のタイトルにもなっていた。ステッカーかな?妻と一個ずつ手に取り触ってみる。内側に丸い輪郭がある。ヌルッとした感触。「これ、コンドームじゃない⁉︎」妻が叫んだ。ほんとだ。この感触、この大きさ。コンドームに違いない。表に書いてあるロゴ、もう一度よく見たら、いかせてトゥナイト、と書いてあった。おいおい、、、ふたりで笑い転げた。グッズにコンドームを仕込むなんて、さすが変態バンドだ。

「ファンの年齢層高いから、誰も使い道ないでしょう(笑)」と割と失礼なことを妻がデカい声で言っているのでヒヤヒヤする。

ミニチュア模型の展示コーナーに寄ったり予約していたグッズを受け取ったりしてから、お昼を食べに竹下通りへ向かった。ウルフギャング・パック・エクスプレスで、ハンバーガーとピザを食べた。見た目に反して味が濃くないので食べやすかった。ポテトも塩分少なめで子供にも安心して食べさせられる。

隣のテーブルには我々と同じくバンドTシャツを着込んだファンの女性グループがいて、これからのライヴの話で盛り上がっているらしい。妻はそういうのを盗み聞きしてニヤニヤする習性があり、どんなことを言っていたのかちょいちょいこちらに教えてくれる。

ウルフギャングでくつろいでいたのも束の間、開場の時間が近づいてきたので、店を出てふたたび第一体育館に向かった。先ほどとは違い、今度は人がごった返している。人の波に吸い込まれながら入り口を通過して、場内に入った。オリンピックのときはもっと大変なんだろうね。来たくないね。チケット当たらなかったからどうせ来ないけど。家で観てるほうが気楽でいいや。そんな会話をしながら先へ進む。

人の波を泳いで階段を下りて、息子を預ける託児所の前にたどり着いた。事前に予約していたのだ。名前を行って息子と荷物を預ける。中には既に何人か子供たちがいてオモチャで遊んでいた。それを見て息子は笑顔で部屋に入り靴を脱いだ。妻は寂しがりやしないかずっと心配していたが、まったくの杞憂だった。息子はバイバイと手を振って部屋の中に消えていった。

妻とふたりでスタンド席に向かう。久しぶりのふたりきりのデート。こういう時間もいいものだ。席についてから30分くらいして、17時過ぎ、ようやく客電が落ち、ライヴが始まった。妻はバンドのことをあまり知らないけれど、ニヤニヤしながら手を突き上げていて、そんな姿を見るのがおもしろい。ニコニコではなく、ニヤニヤ。妻の笑顔を昔から自分はそう表現している。

ライヴ中も息子のことを思い出し気にはなったが、ふたりで腕を振ったり肩を組んだり跳んだりして、ライヴを満喫した。

終演後、出口に流れていく人の波に抗いながら、託児所のある地下へと向かう。息子はどうしているだろうか。もういい加減ぐずってはいやしないか。ドアが開き、息子の姿が見えた。車の遊びに熱中している。やはり心配は杞憂だった。呼ばれて出てきた息子はご機嫌だった。偉かったね、息子。

うちと同じように男の子を迎えにきたお母さんが、自分たちの前を歩いていた。その男の子は息子よりも二つ三つ歳上のようだった。その子がくるっと振り返り、息子に向かって、バイバイ、と言った。どうやら託児所で息子と遊んでくれたらしい。息子も小さくバイバイをした。

やはり早く集団生活に馴染ませたい。幼稚園に入れたい。息子、意外とやっていけるんじゃないか。どこか受け入れてくれないだろうか。

表に出るとすっかり夜。冷気が火照った身体を包み込んだ。少し大きめのリュックを背負って、息子はずんずんひとりで進んでいく。どこに行く気なのか。たまにこちらを振り向き、ニヤッとして、また進む。まだ人が屯しているライヴ会場の入り口付近、息子の青いリュックがキラキラして見えた。