2019 day240

夏の終わり。

入道雲が遠のき、蝉時雨が薄まり、夕暮れの早まりを感じ始めるこの時期は、特別な寂しさに駆られる。物事には始まりがあれば終わりがある。夏の陽気さに忘れかけていたその事実が頭をもたげてくるのだ。

わかれ。脱退や離脱は、集団における個人または少数とのわかれだ。解散は、全員がバイバイでわかりやすい。

例えば、100人で共同生活をしているコミュニティーがあって、その生活がもう10年以上も続いており、一時は200人以上の規模にまで膨れ上がり、周囲の部族を圧倒していた時代もあった。ところが、日照りや台風で不作が続き、狩りの獲物も数が減り、さらにはほかの部族が台頭してきて領土の一部を奪われてしまうという悔しい目にも遭った。

集落の長は皆を食べさせるために自分の飯の回数と量を半分に減らし、皆もたまにおかずを一品減らしながら、それでもいつかはまたあの栄光をと強い信念を持って耐え凌いできた。もちろん、その間には反乱分子も生まれたし、夜逃げする者や敵に寝返る者もわずかにいたが、長の信念は揺るがず、集落の結束は強固だった。

秋の豊作を願って必死に働き祈祷もした。夏の緑色が秋には黄金色へと移り変わる様をそれぞれ思い描きながら、前を向いて生きてきた。

しかし、現実は厳しい。

努力は報われず、願いは叶わず、一度死んだ土に苗を植えても実は育たなかった。領土もさらに奪われてしまい、貯蔵庫の食糧も底を尽きた。いよいよ本格的に口減らしをしなければならない。

長は東西南北を守る4人の頭を集めて、部族の生き残りのために、断腸の思いで30人を切り捨てることを伝えた。ただし、その30人を見捨てるはわけではなく、長の親戚筋にあたる別のいくつかの集落へと移り住んでもらうことにした。

さて、その30人をいくつかのグループに分けて旅立たせるわけだが、それぞれにグループのリーダーを付けてやる必要がある。そのリーダーたちは、東西南北の頭たちの配下の強者から選出することにした。一方で、人を減らし形を変えながらも自分たちが生きながらえていくために、残さなければならない強者たちもいる。

誰を出し、誰を残すのか。長は東西南北の頭たちの進言を聞きつつ、集落の未来予想図を丁寧に描いていった。大枠の形を決めると、誰をどうするのかも見えてきた。しかし、それは大きな賭けであり、非情な決断でもあった。

長はひとり閉じこもり、何度も何度も結論を消し一から考え直しを繰り返し、悩みに悩んだ。夜を徹し、胃に不快感を催しながら、考えた。

そして、明日、集落の者たちへ通達する。混乱は免れない。夏の終わり、輝きの終わり。せめてわずかばかりの希望だけでも携えさせて送り出したい。

静かに夜は更ける。