2019 day177

有休取って、息子の月一病院通いの帰り、自宅最寄駅の近所の喫茶店にかき氷を食べに行った。こじんまりとした店内は主婦層でほぼ満席。二人席に通され、妻と向かい合って座り、息子は膝の上に乗せた。かき氷を注文してぼんやりしていると、隣の席のマダム2人の会話が聞こえてきた。

「ご主人はどうだったの?北極点はどこから入ったの?」

一瞬耳を疑った。

北極?

「まあ、北極とか南極は、別物だから……」

やっぱり北極って言ってる。ご主人北極に行かれたんですか?まるで軽井沢に行ってきましたくらいの軽い調子で話してるけれど、北極ですよね?

「この前、スイスからミラノに入った時にね、バルサミコのお店があって教えてもらったんだけど、何にでもかけちゃうんですって、イチゴとか……」

おお、まるで、新橋側から銀座の中央通りを歩いていたらバルサミコ酢のお店見つけたの、っていうくらい軽いノリでご自身の旅行体験記を話している。

「ラスベガスでゴルフしたらいいわよ」

その発想はなかった。とてもグローバルな庭感。

「もういくつも持ってても仕方ないし。入ってくる分にはありがたいんだけど、年数も経つと修繕も大変じゃない?だから売っちゃおうと思ってて」

今度は不動産の話を始めた。場所はわからないがいくつも所有しているらしい。

「お友達が4,000万で買ってくれるっていうのね。それで税理士さんに聞いたら、購入したときよりも安い値段で売るなら、税金は納めなくていいらしいの」

「あら、そうなの?へえ。でも、いいお友達がいらしてよかったわね」

お友達もけっこうなマダムなのでしょうね。

「お宅の坊っちゃんどうなの?お相手とは?」

「ええ、子供とも仲良くしてるみたい。前の方はね、芸能人だったけど。今度の方は、女医さんって言うの?マンションも買ってあげたからそこでね。9月に出産予定で」

「ねえ、孫っていいわよね、可愛いわよねえ」

ええと、マダムのご子息の前妻は芸能人で、その人との間に生まれた子の親権はもちろんマダムのご子息のもので、新しい奥様は女医さんで前妻の子との関係性も良好で、秋には二人目の孫が生まれる、と。

芸能人ってだれ?芸能人っていってもピンキリだけど、教えて!気になる!だれ?っていうか、やっぱマンション買ってあげるんだ。息子にマンション買ってあげるんだ。すごいな、マダム。いいな、息子。

ふわふわで絶品の宇治金時かき氷を食べながら、マダム2人の会話に意識が集中してしまう自分と妻。何かにつけて目を合わせ、「すごいな」「マジか」と視線で合図を送り合う。

まあ、小市民ですね、我々。まあ、ゲスいですね、人様の話に耳をそばだてるなんて。

唯一息子だけはとてもピュアで、自分の器に分けてもらったかき氷を無心に食べていた。相変わらず素敵な後頭部をしている。そんな後頭部を眺めながら、パパは、セレブなマダム達のリッチな会話に夢中だったよ。君のようにピュアになりたい。でも、マダム達の話、もっと聞いていたい!