2019 day77

『運び屋』を観た。90歳のコカイン運び屋をもうすぐ90歳のクリント・イーストウッドが演じてるっていうだけで星1つ取れちゃう映画。派手さ皆無な作品なのに惹きつけられるのは、イーストウッド監督の老練な監督技術によるものか。

仕事と人付き合いを優先して家族を二の次にしてきた代償をこの歳で払わなければならないのはつらい。家族との距離や時間を取り戻そうとする為、気づけば運び屋をやっている90歳のアールなわけだが、鼻歌口ずさみながら長距離ドライブを楽しんでいるところが、なんだか笑えてくる。この人はこうやって47州巡って長年花を届けてきたのだろうな。そしてアールじいさん、カルテルの手下たちとも仲良くなってるし、手下たちもじいさんに一目置いてる風だし、不思議なほっこり感をもたらす。人たらしな人柄がよくわかる。しかしそれもつかの間、カルテル内部の抗争を発端に話は不穏な方向へ。

先週からのピエール瀧の薬物逮捕のニュースと、内田裕也が79歳で亡くなったという今朝のニュースが、頭の中でぐるぐる重なり合って、とにかくアールじいさんを応援したい気持ちになった。意地っ張りで口は悪いが、お人好しでサービス精神旺盛で、憎めないヤンチャさを持ち合わせているアールじいさん。

こういう運び屋のような末端を捕まえても、カルテルの大元を叩けるわけではないので、コカインは蔓延し続け、カルテルは懐を肥やし続ける。意味無いなあ。麻薬戦争映画『ボーダー・ライン』を思い出した。

芸能人の薬物使用者を捕まえて報道で村八分にして出演作品を自主規制して、それに一体なんの意味があるのか。

アールじいさんもピエール瀧も自分の罪を認めてるし、そのツケが自分に回ってくるのも自業自得だとわかっているのだと思う。彼らは結局カルテルのような組織の被害者でしかない。刑務所に送り込むよりも、更生施設なり病院なりに入れたほうがいい。罪を償うべきは他人を貶めた奴だ。あ、でも運び屋は密売に加担したわけだから刑務所じゃないとダメか。後者にしても、二次被害のことを考えると、それはそれで別に審議しなきゃならないのだろうし。

とりあえず長年不義理をした妻の最期を看取れたことが、アールじいさんにとっても奥さんにとってもよかった。ああ、内田裕也樹木希林が重なる。不仲の娘役を演じているのがイーストウッドの実の娘だったりして、これは内田也哉子か。

クリント・イーストウッドの顔や手に深く刻まれた皺もだるんと垂れ下がった上半身の肉も含めて、いろんなご褒美が詰まった映画だった。