同じ蟻でも…

勤務先の職場にしょーもないおっさんがいて、恐らく40代半ばくらいなんじゃないかと思うのだが、うちの会社でのバイト歴も長い。何がどうしょーもないかというと、仕事が遅く、バカ丁寧で無駄が多い。物量は普通の人の三分の一くらいしか仕事ができない。そして、私語が多い。職場では相当なベテランなのだが。

 
会社に対して色々文句は言うくせに、仕事上のことで注意されると「じゃあ俺も言わせてもらいますけど……」とか言い始めて話にならない。決して悪い人ではないのだが、少なくとも社員からは煙たがられている。おっさんもおっさんで、社員のことは「あいつらどうせ…」と思っているようだ。ただ、なぜか自分にだけは心を開いてくれているようで、一応言うことを聞いてくれる。だからこちらもあまり邪険には扱えない。
 
そんなおっさんだが、同じ職場で働いているバイトや派遣の若い女の子たちにちょっかいを出しているらしい。女の子たちの気を遣った断り文句を額面どおりにしか受け取れず、「それじゃ今度いつならいいの?」みたいな感じでお誘いは果てしなく続くわけだ。それでもようやく撃沈すると、間髪入れずに次のターゲットに向かっていく雑草魂。そのやる気、仕事に使ってくれ、と願う。
 
話は変わって、昨晩、夫婦で数年後の将来のことを話し合っていた時に、いつかは独立するつもりの自分に対して妻が、「本当に?その頃もいまの会社で働いてるんじゃないの?」と言った。
 
「そんなことないよ」と反論。
 
「そう?どうせ、PさんやSさんみたいに、あそこで長くやってるんじゃないの?」
 
Pさんというのは自分の直属の上司で、人柄は柔和で仕事もできる40代後半。外見もキレがある。一方、Sさんというのは例のしょーもないおっさんのことだ。
 
「その二人を一緒にするんじゃないよ」ちょっと怒り気味に言う。
 
「同じだよ。収入だって大して違わないでしょう」
 
「そんなことないだろ!」先ほどよりも強めに言う。
 
「変わんないって」至って普通のテンションで言う妻。
 
まあ、確かに。手取りは時給換算したら大きくは違わないのかもしれない。仕事の内容や量や責任からして、割に合わない。そして同じことが自分にも言えるわけだ。大きな会社に従属して末端で働くということはそういうことなのだ。利益を生み出しているのは自分たちなのに、すべて本体に吸い取られていく。
 
同じ額面の給料でも、人に使われて働くのと自分がオーナーで働くのでは、後者のほうがやりがいが感じられる。だから数年前から独立を考えていたわけだが、仕事の忙しさにかまけてこの一年ほとんど動けずにいた。そろそろ再始動しなければと思う夜に、妻の言葉を反芻してみる。
 
「あのおっさんと同じ、か……」
 
なかなかのショックだ。ボディブローが効いてきた。