スサミ・ストリート全員集合〜または”パペット・フィクション”ともいう〜 (したまちコメディ映画祭in台東 2015)

したまちコメディ映画祭。略して「したコメ」。今年でもう8回目の開催になるそうだ。ここ数年はこの時期が楽しみでしょうがない。前々回に観たショートフィルムフェスティバルは実に楽しかった。グランプリを受賞した『おとなになりたくて』はいまだに覚えている。

昨年は機会を逃してしまったが、今年は二つのプログラムに足を運んだ。



  1.  吹替えの魅力

とり・みきの吹替えの”凄ワザ”講座」と題されたこのプログラムは、掲題のドイツ映画を吹替えで鑑賞した後に、漫画家とり・みきが出演した声優陣を交えながら吹替えの歴史を語るトークショーだ。

羽佐間道夫安原義人大塚明夫など、素人でもわかる大物声優たちが一堂に会した。特に羽佐間道夫安原義人のやり取りは、子供のころ再放送で観ていたテレビドラマ『特攻野郎Aチーム』のハンニバルとフェイスの顔を思い浮かべてニヤニヤしてしまった。

『スサミ・ストリート〜』は、見た目も中身も荒んでいるパペットたちが人間社会の芸能というジャンルで懸命に生きている姿を描いたコメディである。ドイツ風のユーモアを交えた黄色味がかった映像が印象的だ。

トークショーでは、同じシーンを字幕版と吹替え版で観せて比較するというブロックがあり、これが実に興味深かった。本作では、声優陣はかなり自由度の高い環境で吹替えをおこなったそうだが、実際にはキャラクターのしゃべっていないところもしゃべったり歌ったりしていて、昔のテレビで放送されていた洋画を思い出した。

自由度が高いといえば、明らかに字幕とは異なる訳を吹替えにあてていることが引っかかった。それは、声優が勝手に作ったセリフの部分ではなく、恐らく初めから吹替え用の脚本に書いてあったと思われる部分を指して言っているのだが、意訳を飛び越して「話の辻褄が合う範囲でより面白いセリフはこれだ!」と言わんばかりの翻訳者の創作になっていたことが業界的に許されることなのか気になった。本来であれば映画会社からNGを食らうであろう脚本だが、字幕版と吹替え版を比較して観てみると、なるほど断然吹替え版のほうが面白いのだ。なぜなら、吹替え版のセリフと声優陣の幅広い表現力によって、そのシーンの意図がより明確に、よりユーモラスに、より印象深く観客へ伝わってくるからだ。もともとその作品が持っているパワーを何倍にも膨らまして観客へ届ける力(の伸びしろ)が吹替えにはある。「吹替え版だからこその意訳、超訳、もっともっと楽しもうよ」、という気になった。

翻訳において誤訳はダメだが、作品の意図を崩さない程度の遊びは、もっとあってもいいかもしれない。(もっとも、それには翻訳者の力量が相当試されるが。)