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人生スイッチ

6篇のショートストーリーから成るアルゼンチン映画。

ブラックユーモアを孕んだこの手のショートストーリーは、子どもの頃に繰り返し読んだ星新一ショートショートが頭の中を埋め尽くしているせいで、どうも新鮮味を感じることが少ない。というよりも、どの作品もすべて星新一ショートショートで読んだことがあるように感じてしまうのだ。また、ホラーやスプラッタ系の要素が強かったりすると、筒井康隆作品に酷似している気がしてしまう。

社会風刺、ブラックユーモア、ナンセンス。どんなに形が変わろうとも、日本のSFの巨人が生み出した作品に帰結する。

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スイッチ1 おかえし
見えない主人公の仕組んだ罠にはまった飛行機の乗客たち。気付いた時にはもう手遅れ。飛行機の向かった先は……。

まさに、星新一作品に出てくる類のお話だ。じわじわ、ゾクゾク、最後は急降下、というような話の構成は観ていてニヤニヤしてしまう。緊張感が一気に生まれてまるでジェットコースターに乗っているようだ。


スイッチ2 おもてなし
雨の夜のレストラン。訪れた客は昔の仇だった。復讐心に燃えるウェイトレス。だが彼女以上に殺意を抱いているのが調理係のおばちゃん。猫の駆除薬を料理に混ぜようと提案するが……。

この調理係のおばちゃんはまったくの無関係なのだが、なぜかウェイトレス以上に殺意を抱いているのが面白い。よほど血に飢えているのか。このおばちゃんの過去が気になる。


スイッチ3 エンスト
田舎道をアウディで疾走する男。ノロノロ走ってる田舎のオンボロ車を追い抜いたことで悲劇が訪れる……。

主人公の都会の洗練されたビジネスマンという雰囲気が、この後出くわす田舎の暴力男によって崩れていく様が痛快。オチのセリフがさらに皮肉めいてニヤッとしてしまう。


スイッチ4 ヒーローになるために
納得できないレッカー移動に腹を立てた技術者の男。ビルの爆薬解体を専門とする彼は、ついに横暴な役所への怒りを爆発させる……。

お役所への鬱憤は、世界共通だということがわかる。テロリストが時にはヒーローとなり得る、というのはフィクションの世界だけにしておきたい。


スイッチ5 愚息
金持ちの道楽息子。妊婦を車ではねてしまった彼は、泣きじゃくるだけのあまちゃん。父親は弁護士と検事と使用人まで抱え込み、息子を逃がすために画策するが……。

金の亡者と化した主人公とその取り巻きたちに、制裁が下るのはいつか。


スイッチ6 HAPPY WEDDING
結婚式は人生で一番ハッピーな瞬間。新郎新婦はもちろんのこと、家族や友人知人たちも思いっきり楽しむひととき。そこに、妻の嫉妬と夫の告白というスパイスを加えると、あららら、パーティ会場はあっという間に地獄絵図……。

このお話だけで1本の映画を撮ってもよかったと思う。晴れの舞台が一気にグッチャグッチャのメッタメタになっていく様子が気持ちいい。結婚式をぶち壊しにしたい願望が少しでもあるなら、このショートストーリーに心を奪われることだろう。


復讐というキーワードで連なる6篇のオムニバス作品。復習したくなるようなムカつく奴やムカつくエピソードが出てくるのは面白くていいのだが、それだけ?それで終わり?感が拭えず、観る人のスイッチが入るかどうかは疑問が残る。