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最後の客

日常
そのカレー屋さんは10年近くおばちゃん一人で切り盛りしていた。自分で作って、自分で給仕して。10人くらいしか入れない小さなカレー屋さん。

店内には、おばちゃんの描いた猫の絵がたくさん飾ってあった。昔飼っていたというおばちゃん家の猫だ。その絵を眺め、店内に流れるFMラジオを聞くともなしに聞きながら、カレーライスを食べるのが至福のときだった。

カレーの味は一級品。都内でも五本の指に入ること間違いなしの胃袋をくすぐる味。誰にでも勧めたいカレーだ。

付け合わせのサラダも美味しい。毎回内容がちがうのもミソ。

たまにサービスでフルーツを出してくれるのだが、このフルーツも毎回必ず美味しいのだ。

おばちゃんは優しくて気さくで、ちょっとした会話も安らぎの一環。

そのお店が突然の閉店を宣言。

昨日、最終日には、妻を伴って食べに行った。ふたりの大好きなチーズカレーを注文。いつも以上にその唯一無二の味を噛み締めた。

我々ふたりが最後の客となり、店内はガランとした。飾ってある絵を一枚欲しいと訊いてみた。「いいよ、あげる」といつもの気さくな感じでおばちゃんは言った。額縁を拭いて袋に入れて渡してくれた。

寝てる猫の絵。きっと昼寝の姿だと思う。この絵はずっと我が家の一角でそのカレー屋さんの時を刻むことだろう。

おばちゃん、通わせてもらったこの5年間、ごちそうさまでした。