今日のご褒美
職場を出ると目の前に大きな虹が。
この子の記憶に今この時がどのように刻まれるのかは計り知れないが、この子に何かちょっとしたいいことが起きればいいのに、と願ってしまう。
ここのところ溜まっていたものがスーッと透明になり、一瞬だけ心が軽くなる。
「虹の麓に行ったことがあるかい?」
昔、誰かがそんなことを言っていた。よくあるおとぎ話だろう。話のその先は覚えていない。
そばを通りかかった家族連れが、虹を見つけたようだ。母親が子供たちに指をさして教えている。まだ幼い子供たちは、不思議そうな顔つきで空を見上げる。
5歳くらいの女の子がつぶやくように言った。
「初めて見たぁ……」
家族連れが遠のいていく。
二、三度振り返った後、虹を背にしてお天気雨の中をてくてく歩いて行った。